【ツギクルTリーガー】「仮想・伊藤美誠」から「ポスト伊藤美誠」へ 櫻井花
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ノジマTリーグ2023-24シーズンは、ITTF世界卓球選手権釜山大会開催のため3月2日までの休止期間に入りました。再開後はプレーオフ進出をかけた最終盤の試合が展開されますが、下位チームが一つでも上の順位を獲得しようと奮戦する姿も見どころです。全ての試合が熱い戦いとなることを期待しましょう。
さて今回は、優勝争いの真っ只中にいる木下アビエル神奈川(以下KA神奈川)で、雌伏の時を送っている櫻井花(さくらい・はな)選手を紹介いたします。
櫻井選手は2008年6月に北海道で誕生しました。二人の兄の背中を追いかけ、5歳の時に、父である匠さんが主催する卓球クラブ留萌モンスターズジュニアで競技を開始しました。卓球一家というゆりかごの中で育った櫻井選手は、小学校時代から数々の大会で好成績を収めるモンスターぶりを発揮していました。中でも小学校6年時に出場したホープスナショナルチーム選考合宿の東日本大会では、3位入賞という好成績を残しました。そしてこの大会は、櫻井選手の卓球人生にとっての大きな転機ともなりました。木下アカデミーのGMを務める渡邊隆司氏の目に留まったのです。「お父さんと練習しているのを見た時に、他の台とはスピード感が違った」ことが強い印象をもたらしたそうです。小学校卒業後、地元の中学に進学していた櫻井選手の元に、木下アカデミーからのオファーが舞い込んで来たのは1年生の秋のこと。最初は「自分のような弱い選手が木下アカデミーのようなレベルの高い環境に行っても大丈夫なのだろうか」とかなり悩んだそうですが、兄倭さん(明治大学卓球部在籍中)に「弱いからこそ厳しい環境に身を置いたほうがいい」と背中を押され、入学を決意します。親元を離れて、木下アカデミーと提携する横浜市の星槎中学に転校すると、2022-23シーズンからはKA神奈川にも入団し、Tリーガーとして歩み始めました。このシーズン、櫻井選手は、当初出場予定だった平野美宇選手のコンディション不良で急遽ダブルスに出場することとなり、梅村優香選手とペアを組んで幸先よく初出場初勝利をあげました。しかし日本生命レッドエルフから覇権を奪ったKA神奈川には、平野選手の他、木原美悠、長﨑美柚、張本美和といった日本代表クラスの錚々たるメンバーが名を連ねており、今シーズンを含む通算でもダブルスのみ3試合に出場して2勝1敗と、おおいに物足りない成績しか残せていません。
櫻井選手の戦型は、右シェーク異質攻撃型で前陣速攻を得意とします。これは伊藤美誠選手と同じ戦型です。ちなみにラバーの貼り方も伊藤選手と同じにしているそうです。現在の櫻井選手は「仮想・伊藤美誠」の精度をあげることに取り組んでいます。これは、なるべく多く強い選手と練習させることで実力をつけさせたいと考える、渡邊GMの育成方針によるものです。この狙いは見事にハマり、櫻井選手は前述したトップ選手たちと数多く練習する機会に恵まれています。チームの有力選手たちをうまく利用して己を鍛え上げているのです。櫻井選手が「仮想・伊藤美誠」を超えて、独自の強さを身につけ、「ポスト伊藤美誠」と呼ばれるようになれば、KA神奈川はポスト黄金世代の確立に成功、新陳代謝がはかられ連覇を続けることとなるでしょう。そしてそれは同時に、同学年の張本美和選手を脅かすライバルの出現ということにもなり、日本女子卓球界のレベルアップにもつながります。桜井選手の「成長曲線」には要注目です。
櫻井花(さくらい・はな)
2008年6月6日北海道留萌市生まれ。現在木下アカデミー、星槎中学在学中。2020年度東日本ホープスナショナルチーム選考合宿ホープスの部3位、2023年全国中学校卓球大会 団体戦優勝。2022-23シーズンよりKA神奈川に所属。戦型は右シェーク異質攻撃型で、同じ戦型を採っている伊藤美誠選手が憧れのプレーヤー。
(文・江良与一)