【ツギクルTリーガー】変幻自在の「大物食い」 出澤杏佳
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ノジマTリーグ2023-24は第5節に入りました。女子では木下アビエル神奈川が4連勝で首位を快走中。一方で九州アスティーダ(以下九州A)と京都カグヤライズはいまだに勝ち星を挙げられていません。
今回は、苦戦続きの九州Aの反転攻勢のキーマン出澤杏佳選手を紹介いたします。
出澤選手は2002年6月に茨城県で誕生しました。父と二つ年上の兄の影響で小学校1年生の時から卓球を開始。そしてその年の12月に日立大沼卓球に入団し、小貫美穂子コーチと出会ったことで卓球に本格的に取り組むこととなります。小貫コーチは、出澤選手の入団初日に新品のラケットのラバー(フォア、バックともに裏)をバリバリと剥がして、フォア側を表、バック側を粒高という、非常に珍しい組み合わせに貼り替えてしまいました。
当時の出澤選手は膝をうまく使うことができておらず、ボールに回転がかけられていなかったが故に、ラバーを工夫してボールを回転させようという小貫コーチの目論見でした。この暴挙(?)が現在に至る出澤選手のプレースタイルを定着させ、数々の大会での好成績につながったのですから、人生、何が幸いするかわかりません。
小学校時代、全国大会の常連だった出澤選手は、大阪の名門校四天王寺中学に進学しますが、厳しい練習や、周りの選手のレベルの高さについていくことができず、一時はカットマンへの変更を勧められるなど、プレースタイルも迷走したため、2年生の時に郷里茨城に戻ります。一旦は競技継続を諦めかけましたが、母親の勧めもあって再度小貫コーチの指導を仰ぐこととなりました。ここで小貫コーチから「これからは自分で考えて練習しないと強くなれない」という言葉を掛けられ、それまでの、指導者に従うだけだった姿勢を改め、強くなるためにどうしたら良いかを常に考えた練習を行うようになったそうです。
高校は地元の大成女子高校に進学。インターハイ団体戦では絶対王者の四天王寺高校をあと一歩のところまで追い詰める大接戦を演じました。そして個人としては2019年にジュニア選手権で優勝しました。
堂々たる実績を引っ提げて2019年にトップおとめピンポンズ名古屋(以下TOP名古屋)に入団し、Tリーグに参戦します。TOP名古屋では最初から主力を任されましたが、さすがに「プロの壁」は厚く、シングルスのみの出場で4勝5敗と不本意な成績に終わりました。2021-22シーズンからは九州Aに移籍しましたが、2022-23までの通算4シーズンでシングルス7勝27敗、ダブルス4勝8敗と苦戦が続いています。
しかし、中学時代に一度どん底まで落ちた経験のある出澤選手は不屈の闘志を持ち続けています。気持ちだけではなく、2020年の全日本選手権では平野美宇選手から勝利を奪うなど、「実績」も残しています。他に類を見ない異質のラバー構成から繰り出されるドライブは、今まで数々の「大物食い」を果たしてきました。時に、ラケットの表裏を瞬時に持ち変えてフォア側から粒高ドライブを放つという変幻自在さも持ち合わせており、一度自分のペースをつかめば、無類の強さを発揮します。常にジャイアントキリングの可能性を秘めた、目の離せない選手なのです。今シーズンはシングルス二試合に出場し、1勝1敗と目立った活躍は見せていませんが、今後シーズンが深まるにつれ「大物食い」のチャンスも増えてきます。出澤選手が、黄金世代の強豪たちに勝利し、ポスト黄金世代の一番手に躍り出る姿を期待して応援していきましょう。
出澤杏佳(いでさわ・きょうか)
2002年6月28日茨城県生まれ。大成女子高校在学中の2019年にTOP名古屋に入団しTリーグデビュー。2021-22シーズンから九州Aに移籍。現在専修大学在学中。右シェーク攻撃型でフォア側は表、バック側は粒高という独特のラバーからのドライブが特長。
(文・江良与一)