【ツギクルTリーガーの通信簿】一気に波に乗ってチームのエースへ 五十嵐史弥
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ノジマTリーグ2024-25シーズンは男女ともに波乱が続いています。女子は、首位の日本ペイントマレッツにトップおとめピンポンズ名古屋が待ったをかけ、男子は、昨季の王者木下マイスター東京(以下KM東京)が前節に続いて2連敗を喫し、5位に転落しました。
男女ともに混戦模様となりつつある今シーズン、最後までどのチームが優勝するかわからない、手に汗握る展開を期待したいものです。
さて、今回の通信簿は、今節のKM東京戦で大逆転勝利の立役者となった金沢ポート(以下金沢P)の、五十嵐史弥選手の現在地について綴っていきたいと思います。
五十嵐選手の卓球人生は波乱続きでした。小学校時代からその才能を高く評価されていた五十嵐選手は、スポーツの名門として知られる青森山田中学に進学しますが、卒業後に進学予定だった同中の系列の青森山田高校は卓球を強化対象から外してしまったため、一旦地元山形の中学に転校し、高校は石川の遊学館高校を選択します。
ここで修練を積み、実力を蓄えた五十嵐選手は早稲田大学に進学し、4年時には主将を務めるまでに至りますが、卒業後に就職予定だった実業団チームが、突如解散してしまい、進路が宙に浮くという憂き目に遭ってしまいます。
そんな苦境にもめげずに、2021年には日本人選手として初となるイタリアのプロリーグ挑戦をはたします。そして、アマチュア時代の成績と、困難な環境に果敢にチャレンジする姿勢を買われ、2021-22シーズンからT.T彩たまに入団し、Tリーガーとしての歩みを始めました。
しかし、チャレンジ精神だけでは通用しないのがTリーグ。参入後2シーズンの通算成績は、シングルス未勝利の1敗、ダブルスは2勝12敗と苦々しいTリーグの洗礼を浴びてしまいます。
そんな五十嵐選手の転機となったのは、高校時代を過ごした石川県に、金沢Pという新チームが誕生した2023-24シーズン。地元出身の選手として金沢Pに引っ張られた五十嵐選手は、チームの中心選手として起用され、シングルス4勝3敗、ダブルス4勝4敗とTリーグの水準にマッチした姿を見せてくれました。
昨シーズンの実績から大きな期待とともに突入した今シーズンでしたが、前節まではシングルス1勝3敗、ダブルスは未勝利の2敗と苦戦が続いていました。しかし、今節、地元石川県のかほく市で行われた、強豪KM東京との対戦に出場した五十嵐選手は突然「覚醒」しました。強敵リンユンジュ選手を相手に、ゲームカウント1-2の劣勢から逆転勝利を挙げたのです。しかも、第4ゲームで5-10でマッチポイントを握られてからの、まさに崖っぷちからの大逆転でした。
勢いそのままに、この試合の雌雄を決するビクトリーマッチにも出場し、大島祐哉選手を11-3のスコアで圧倒してチームを勝利に導きました。試合途中で、自身の強みである強打を活かせるポジションをつかみ、威力あるショットを放ち続けたことが直接の勝因ですが、ビクトリーマッチに選出された時に「絶対に勝ってやる。自分はこんなもんじゃない」という強い気持ちを五十嵐選手に抱かせ、その背中を押したのは、苦難に満ちた復興の日々を送る地元のファンたちの大声援でした。
182cmと卓球選手には珍しい長身の五十嵐選手は、その恵まれた体躯から繰り出すパワフルなショットという、他の選手にはない強力な武器を持っていましたが、今ひとつ伸び悩んでいた印象がありました。試合中にポジションチェンジを図れる柔軟さ、そして何より「自分はこんなもんじゃない」という強い気持ちを持ち続けることができれば、「覚醒」は今節限りのものではなくなります。五十嵐選手の「覚醒」が本物かどうか見極める意味においても、今後の金沢Pの試合からは目が離せません。
五十嵐史弥(いがらし・ふみや)
1999年9月9日山形県生まれ。青森山田中学、遊学館高校を経て早稲田大学卒。大学卒業後にイタリアリーグ、アプアーニア・カラーラに入団し、日本人初のイタリアプロリーガーとなる。2021-22年シーズンにT.T彩たまに入団しTリーグに参戦。2023-24シーズンから金沢Pに移籍。戦型は右シェークドライブ型で、恵まれた体躯から繰り出す力強いドライブが武器。
(文・江良与一)