【アナタの知らない卓球の世界】その独特なサーブは諸刃の剣?王子サーブ衰退の理由を考察する
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卓球の試合で、一際目を引くサーブといえば、しゃがみ込みながら繰り出す「王子サーブ」を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。
ボールを高く上げ、落下する勢いを利用して強烈な回転をかけるこのサーブは、かつて多くの選手を魅了し、試合の流れを大きく左右する武器として注目を集めました。
しかし近年、プロの試合で王子サーブを見る機会は減ってきており、Tリーグにおいても菅澤柚花里選手や松平健太選手など一部の選手だけが使うようになっています。
そこで今回は、王子サーブの歴史や魅力、そしてなぜ衰退していったのかを考察していくことにします。
王子サーブとは?
王子サーブは、大阪の王子町にあった王子卓球センターの創設者、作馬六郎氏によって考案されたサーブです。
約50年前に、作馬氏が常連客に試合で勝ちたいという思いから研究を重ね、この独特なサーブを生み出したと言われています。
王子サーブ最大の特徴は、しゃがみ込みながら打つことでボールの落下速度を利用し、強烈な回転を生み出す点にあります。
ボールを真上に高く上げ、落下する勢いを最大限に利用し、ラケットは顔の横で縦に振り、ラケットの裏側や内側でボールを切るようにしておこないます。
ボールの落下地点をよく見て、膝を使って深くしゃがみ込み低い打点でボールに力を伝えやすくしつつ、なおかつラケットの先端部分でボールを捉え、その後もスムーズに振り抜くことで、精度を高めています。
この打ち方によって、横回転、下回転、上回転など、様々な回転をボールに与えることが可能となり、相手はボールの軌道と回転を予測しにくく、レシーブミスを誘発しやすいことから、得点に繋がりやすいと重宝されてきました。
王子サーブが減っている理由
そんな多くの選手が使用していた王子サーブですが、冒頭のとおり近年プロの試合で見かける機会は減少傾向にあります。
その理由の一つとして、海外選手による研究が進み、王子サーブ独特のフォームと回転に対する対策が立てられるようになったことが挙げられます。
海外の選手たちは、早い段階から王子サーブの特性を分析し、レシーブ技術を向上させてきました。
また、王子サーブはしゃがみ込むという大きな動作を伴うため、3球目への移行が遅れやすいというデメリットがあります。
現代卓球は、サーブから3球目までの展開が非常に重要視されており、素早い攻撃への移行が求められるため、動作の大きい王子サーブは不利になってしまいます。
さらに、短く出すのが難しく、スピードが落ちやすいという側面もあります。
これらの理由から、プロの選手の間では、よりリスクの少ない、現代卓球に適したサーブを選択する傾向が強まっているのです。
まとめ
王子サーブは、作馬六郎氏によって考案され、福原愛選手によって広く知られるようになった、卓球史に残る独特なサーブです。
強烈な回転と予測しづらい軌道は、相手を翻弄する強力な武器となります。効果的に使えば、相手を大きく崩す可能性を秘めていることは間違いありません。
そんな、王子サーブは、まさに「諸刃の剣」を体現するサーブと言えるでしょう。
だからこそ、ミスがすぐにポイントにつながる、現代卓球において使用頻度が減少していることは、自然な成り行きと言えるのかもしれません。
それでも、この日本発祥の独創的なサーブが、このまま廃れてしまうのは惜しいことです。
戦術や技術の進化に合わせて改良を加え、再び世界の舞台でその魅力を発揮することを願ってやみません。
王子サーブが再び脚光を浴びる日が来ることを、心から期待しています。
(文・富永陽介)